会計士Renの記録
再び巨大迷路を作り上げたRen達は
今度は匪賊と商人の双方に
挑戦状を出したのだが―――
「【白竜戦争】迷宮は人の心をも迷わせる【26日目】」
「もう一度迷路つくりませんか?」
突然、そう言い出したのは私だった。
「え、今日か?」
珍しく目を丸くしたのは、書類仕事に追われる盟主Lava。
「はい、今日です」
「急だな……」
そう言いながらも、書類仕事に辟易していたらしいLavaは、私の計画書にあっさりサインした。
* * *
「じゃあ俺は西側を」
「あ、私は南側にいきます」
急ではあったが、連絡を受けた傭兵たちは、いつもより早い時間ではあったが都合をあわせて集まった。
大量のバックボールを持ち、迷路を築いていくという行為はとても楽しいものだった。
既に一度迷路を作っていたせいか、皆、手際がいい。
やがて、迷路は完成した。
だが、迷路が完成してもお客に伝えなければプレイヤーは居ない。
前回の迷路はルールの伝達が上手く行かず失敗していたのだ。
改めてLavaは商人・匪賊同盟副盟主へ迷路の設置とルールの連絡をした。
***ルール***
■バックボールは動かさない。
■テレポ・ハイド禁止。
■傭兵側はフィールド魔法と虫のみで迷路の邪魔をする。
■期限は地球時間で23時まで。
************
傭兵砦の東側には、机一つと椅子を二つ置いた。
椅子の一つに腰を下ろしたのは、Rose。
そう、迷路の一角に占いコーナーを設けたのだ。
やがて、匪賊が姿を現し、迷路の攻略を始めた。
果敢に迷路の最終地点付近のフィールド魔法の壁に挑むAriElle。
「これはクリアするんじゃないのか」
傭兵たちは、その勇姿を見守った。
もちろんフィールド魔法を絶やすことなどなかったが。
だが、フィールド魔法の前にAriElleはその命を失う。
それでも匪賊は諦めなかった。
eclipseがフィールド魔法の一角に姿を見せた。
傷つき、毒に侵されながらも、前へ進むその歩みは止まることがない。
そして、初めての迷路攻略者となった。
「すごい!」
「おめでとう!」
口々に傭兵たちは彼を褒め称えた。
彼の褒めたというよりは、自分たちが作った迷路に挑み、攻略してくれたという嬉しさが大半だったかもしれない。
「AriElle様の死を無駄にはしません。
あの方が通った道から、フィールド魔法で見えない通路を予測して歩いたのです」
そう言って、eclipseはわずかばかりの賞品を受け取り、傭兵砦を辞した。
表情をあまり変えないイメージの男だったが、このときばかりは誇らしげに見えた。
気がつくとRoseの占いには列が出来ていた。
「人気ですね」
「さすがRose」
違う破片世界で名を馳せた占い師であることを、知ってか知らずか彼女の占いは、やがて訪れた商人同盟の人間も並ぶほどだった。
何を占っていたのか、壁越しにその姿を見るだけだった私たちには知る由も無かったが、恐らく占いを依頼した人間たちは、光明を見出せたことだろう。
「盟主、Canariaが魔法攻撃を受けてます」
その一報が入ったのは終了時間前だった。
「どこで、誰からだ」
砦前の様子を伺っていたLavaは眉間に皺を寄せ、振り返った。
そのときCanariaは砦二階でRoseの姿を見守っていた。
どうやら占いコーナーの付近にいる自由貿易同盟所属の人間から攻撃を受けているようだった。
「反撃しますか?」
傭兵たちが声や視線で問う言葉にLavaは首を振った。
「死ぬほどじゃないだろ。
現状維持だ。
時間までは攻撃はしない」
「はい」
皆がその指示に従い、剣を収めた。
だが、その時間は短かった。
「Roseが殺されました!」
その報告に、皆が立ち上がった。
そして盟主に視線が集まった。
「誰にだ」
「商人です」
Roseが占いを担当していた一角に目をやれば、そこには占いの顧客だった自由貿易同盟の男が一人、「占いの途中だったのに……」と呟いている。
更にその奥にいたのは、同じく自由貿易同盟に所属する男。
しかも先ほどCanariaを攻撃してきた人間と同一人物だった。
告知していた迷路の終了時間までは、あともう少し。
だが……
「殺せ」
仲間を殺されて黙っている理由などなかった。
そして迷路は今日も血に塗れた。
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